From The Miami Herald: U2 leaves its heart, mark at arena U2、アリーナのシンボル、ハートを去る http://www.miami.com/herald/content/features/arts/digdocs/018054.htm  「ファンのためにやっているんだよ」とは、ポップスターの決まり文句である。  これは自らの野望、アルバム、ツアー、再結成、それからクレジットカードといった 行動を正当化するための言いぐさだ。これはたいていの場合「もうこんなことは たくさんなんだ。本当は他のメンバーの顔を見たくないんだ。でも金を稼がなきゃ ならないから、こうしてここにいるのさ」という意味である。  Atlanta出身の3人組TLCはFan Mailという名前のアルバムを出したが、これは ファンレターがなかったら成し遂げることができなかったかもしれないからだと 彼女らが言っていたからである(この場合は、ファンは彼女らがしたことが嬉しく 思うだろう)。  もちろん、どういう訳かファンがスターの利他主義に見える行動に踊らされて いることが普通だ。もしファンのためだったら、無料にしないものか?  U2は今年、アメリカとヨーロッパを回ったツアーで、今までに貼られたポップ スターのレッテルを剥がそうと思っていた。3月のSunriseのNational Car Rental Centerでのオープニングショーで、U2はTLCがFan Mailツアーで使用した デザインを拡張したステージを披露した(長らくU2の音楽とメッセージは、アフロ アメリカンの文化をうやうやしく再構築したものであった)。  U2のセットでは、数百人のファンを取り囲むように広がるキャットウォークが フィーチャーされていた。このハート形のモッシュピットによってファンは、前の ツアーではマルチメディアの仕掛けのスモークや鏡によって隠されていたU2に 近づくことができた。  しかし、その夜のボノはこのセット全体について躊躇していたように見えた。足に 手を伸ばしてくるファンを信用していいものかと不安になっていたようにも見えたし、 ステージそのものに対しても、思いっきり傾斜路を走ったときに滑ったり落っこち たりしないかと不安になっているようにも見えた。U2は保険をかけ、演奏の間中 ほとんどの時間をガーゼ状のスクリーンを観衆と彼らの間にかけていた。ファンと アーティストの掛け合いによるショーは、エキサイティングだがリスクの高い構想 であった。  9ヶ月後、ツアーの幕を引くために日曜日の夜にMiamiのAmericanAirlines Arenaへ やって来たボノは、ハートのキャットウォークをまるで自分で切り開いた道である かのように歩いていた。スクリーンは1曲を除いて取り外されていた。そして パンクロッカーのダイブをする直前のようにファンが興奮してバリケードに押し 寄せてきたとき、ボノはそのファンをステージに引っ張り上げ、やさしく祝福 した。ボノはその上半身裸のファンの背中に腕を回した。彼の背中には、まるで ツアー日程をプリントしたTシャツが燃えて彼の皮膚に焼き印となって残ったような 刺青をしていた。2人が抱き合うと会場全体が拍手をし、2人はスローダンスを 始めた。  「そう、俺達はマイアミで始めて、そして終えるんだ」と、ボノは開演後しばらく してから言った。「この美しいFloridaの地でステージに出た時から分かっていたよ。 特別な何かが俺達とみんなの間に生まれているのが」  「それは、制御不能なんだ」と彼は続け、次の演奏曲"Out of Control"になだれ 込んでいった。  9ヶ月というのは、受精卵が赤ん坊になるのに要する期間である。同時に、世界が 崩壊するのに充分な期間でもある。U2は日曜日に再び生まれたバンドのように 演奏した。まるで目的を失った時代にも彼らが新しい目的を見つけたかのように。  1980年のバンド黎明期、U2は政治的な熱意と宗教面の精神という点で、他の ポストパンクのバンドと立場を異にしていた。結局、彼らはダブリン出身なのだ。 その晩で最も感動的な場面のひとつは、北アイルランドでEasterの大虐殺について 歌ったSunday Bloody Sundayの時にやって来た。ボノはアイルランド国旗とアメリカ 国旗を観衆から受け取り、それを結び、まるで戦場から引きずられて戻る兵士の ように背後に従え、キャットウォークを歩いていった。  「Wipe your tears away」と歌いながら、ボノは星条旗をそっと頬に付けた。旗を かぶるでもなく、振るでもなく、優しく撫でていた。  アメリカ国民は、他の国の国民がもがき苦しみながらすでに自分のものにしたことを 学んでいるところである。どのように喪に服すのか、どのように癒すのか、あるいは 憎悪を超えて人の心を動かすのか。  U2のアンコールでは、9月11日に亡くなった人々の名前のリストが、U2の後ろ にあるスクリーンに、そして会場全体に渦のように、次々に映し出された。少しだけ George Harrisonの「My Sweet Lord」を演奏した後、U2は最新作収録のWalk Onで ショウを、そしてツアーを閉幕した。  「Leave it behind, you've got to leave it behind」とボノは歌い、映し出された 名前は頭上に昇り、そして消えていった。今回は、本当にファンのためであった。