From :Rolling Stone U2 Stirring Their Souls in the Studio U2はスタジオ内で自分達の魂をかき混ぜる http://www.rollingstone.com/sections/news/text/newsarticle.asp?afl=&NewsID=11410&LookUpString=45  10作目のスタジオアルバム制作の合間に、ロックンロールと自分達自身に対して 誠実であり続けると宣言した。  ボノは、ダブリンにあるU2がレコーディングに使用しているスタジオの真ん中の ソファーに座っている。ラップトップPCをひざに乗せ、手にはマイクを持ち、そして 彼が入れたばかりのヴォーカルに耳を傾けている。その曲は、少なくとも今現在は 「Stir My Soul」という名前で呼ばれている。5月のとある金曜晩の6時15分ころに 聴くこの歌は繊細で美しい。催眠術のようなピアノを基調とし、そのほとんどが "stir my soul"というフレーズとなっている、何回も繰り返されるコーラスの前に、 ボノは言葉とメロディを混ぜるように呟く。他の3人のメンバーやプロデューサーの ダニエル・ラノワはスタジオのあちこちに座っている。(共同プロデューサーの ブライアン・イーノは短期間できちんと仕事をするのが好きなようだ。最近は1ヶ月 あたり1週間の割合で顔を出している)  U2は、ここ数年に渡って取り組み、この秋にリリースされる予定のニュー アルバムの1曲目に、この「Stir My Soul」を持ってくると言うアイデアを持って いる。「ある種の『最初の1手(チェス)』だな」とボノは言う。「ある時は夢の 中で出てきて、またある時は床の上で見つける類の。」エッジは、このアルバムを 作るのにはおそらく100曲ほどは手がけたのではないかと語る。スタジオの反対側には ホワイトボードがかかっており、有力な19曲の候補の進捗状況が示されている。 それによると、どの曲も仕上がっていないようだ。今晩は、それらうちのたった ひとつが進化するさまから、見事なまでにめまぐるしく変化するそのプロセスが 少しは分かるだろうと思う。  ボノが言うには、1年前にはその曲は「Jubilee」と呼ばれており、それで決着して いたと言う。この曲は旧約聖書に記載されている聖年(jubilee)のアイデアから 浮かび上がってきた。「ユダヤ人達は、7日のうちの1日を働かない『安息日』から このことを思いついたんだ」と彼は言う。「7年ごとに農地を休ませる年を設け、 そして7×7年、つまり49年ごとに聖年を設け、金を貸している者はそれを放棄する ことにした。捕虜や奴隷は解放された。神の愛の時さ。美しいアイデアだよ。本当に」  U2はその曲を彼らの回帰すべき曲と定義していたが、数日後に聴き直した時に 聖年の概念をすべて破棄した。ボノは全く別の歌詞を書いた。彼は最初の出だしを 歌う。    Speak to me of the supernatural things((君は)僕に自然を超越するものについて語りかけ)    I will listen if you can tell me why the songbird sings(鳥の鳴く理由を君が説明できるか、僕は聞くだろう)  そしてパソコンから全歌詞をプリントアウトしてくれた。あたかも彼が自分の仕事が 進まないためにニューアルバムの仕上がりが遅れているのではないということを示そう としているようである。しかし、今となってはそのバージョンでさえも過去のもの である。「美しい調べ、美しいメロディ。でも俺達の望みはそういうものではない んだ。もっと祈りのようなものが欲しいんだ」  従って2日前、「Stir My Soul」として知られる曲は再度変化した。「僕達は コードを全部替え、10拍子ほどテンポを速くしたんだ」とエッジは言う。ボノはこう 説明する:「かつてQuincy Jonesが俺に『神が部屋を通り過ぎるのを待っているんだ。 さもなくば、それはただの技巧さ』と言うんだ。つまり、曲を書く作業は退屈なんだ。 部屋の隅っこに冷蔵庫があって、リンゴとミルクが1びん冷やしてあって、それから ファックスもあるけどね。そんな中で奇跡を待つのさ。そうでなければただのパーツの 寄せ集めでしかない。それで昨日、この素晴らしいメロディを授かったんだ」  もちろん、新しいメロディは古いコーラスとはしっくり来ないので、ボノは新しく コーラスを考えた。「このDusty Springfieldのようなやつさ」と彼は形容した。 (「俺は彼女にものすごく影響を受けているんだ。俺達はいろんな面で似ている。 ファーストアルバムからね。彼女の感触があるんだ」)  しかし、彼らはまだハッピーではない。今はコーラスが平凡すぎると言って悩んで いる。エッジはギターで何とかなるか奮戦中だ。  「それ、いいね」とボノが励ます。「前よりも幻惑的だ」ボノはコーラスの終わりに ある曲の一部(一旦止まって、再び集まる)が気になっている。彼はラノワに話し かける。「止まるところが少し専門的だよね。ちょっとごちゃごちゃさせた方が いいかもしれないな」  ボノはマイクを手にし、曲に素晴らしい「oh-whoa-oh-whoa's」というフレーズを 入れてみる。彼の周りでの会話がわずかの間止まる。U2が曲を変え、補正し、 進化させるのがどんなスピードで、あるいはどれほど少ない尊敬で(訳者註:前の 曲に固執しないことを言っているのか?)されているのか見ることは、注目に値する。  しかし、今は夕食の時間になった。コックが上の階に用意し、全員が1つのテーブルで 食べられるようになっている。  これはU2の10作目のスタジオアルバムである。ボノが言う。「この時点では、 これはある種の自尊心と、ロックバンドから浮かぶ一般的なイメージへのある種の 反抗のアルバムなんだ。大抵のバンドの最高傑作は20代のうちのものだろ。でも 俺達のは30代のだ。俺が思うに・・・、20代でもいい作品は作ったけど、さらに良く なっているんだ」彼は前作POPについても語る。これは目前に迫った、既に日程の 決まっていたスタジアムツアーPopMartのせいで狂乱じみた日程の中で仕上げなければ ならなかった作品である。「俺達は芸術とかテクノロジーに惹かれるものがあって、 何曲か凄い曲を書いたんだけど全く終えることができなかったんだ。それは受け 入れるけど、あのアルバムとツアーの背景にある冒険心はいつでもスタンバイして いるんだ」  新曲の一部は、まだツアーに出ている間に形ができた。エッジは、「Stuck in a Moment and You Can't Get Out of It」(私が聴いたバージョンではフィラデルフィア ソウルの荘厳な洪水であった)のアイデアの兆しが形をなす様を思い出す。これは ゴスペル調で、彼が日本のホテルの部屋の中でピアノを使って書かれた。「僕は 意識してあの伝統の中に何かを探していたんだと思う。POP制作中にいろいろ実験的な こと、つまりテクノとかダンスとかなんだけど、それを行い続けた結果、それよりは 少し素朴なものに戻ろうと思ったんだと思うね」  彼らがニューアルバムについて考え始めたのは、ツアーが終わってすぐ、ダブリン でのことであった。エッジは言う。「僕らはちょっとバンドで始めたんだ。『核心から 始めて、そこから発展させよう。実験は後でもできる』って考えてね」  「俺達は今でもテクノロジーと遊んでいるんだ。リバイバリストといった連中とは 違うよ」とボノは指摘する。  早い時機に、16年前に「The Unforgettable Fire」で共に仕事をし、「The Joshua Tree」、「Achtung Baby」、「Zooropa」の一連の作品でも関係を続けたラノワと イーノに接触した。イーノは最初、2週間の即興演奏で作ってみることを提案し、 U2はそれを受け入れて実行し、1日に3、4個のアイデアをひねり出した。その中 にはボノが共同執筆したWim Wendersの映画「The Million Dollar Hotel」のサウンド トラックの曲に使われたものもあるかもしれないが、少ないだろう。「多分僕らは、 2週間でもアルバムは作れるよ」とエッジは言う。「凄いアルバムにはならないだろう けどね」  従って、バンドは旧来の作曲、レコーディング、補正のリズムに戻った。私は 制作中の曲のいくつかを聴くことができた。「Elevation」はT-Rexとヒップホップの 間にある、うるさいエレクトロロックだ。この曲でボノは叫びともラップともつかない ヴォーカルを披露している。「In a Little While」は伝統的なメロディーのR&Bで、 ボノは『ホリデイ・インのロビーで演奏しているような』と形容している。 仮タイトルをして「Home (This Bird Has Flown)」は今のところ、U2が台頭した 80年代後期の雰囲気に近い。  ボノは言う。「俺達が抱えてきた唯一の問題は、いたずらも策略もない部屋に バンドを押し込めると、彼らの作る音がちょっとU2に聞こえる傾向があると言う ことだね」それに対してラリー・マレンJrが呟く。「俺達が始めた時に、誰がそんな 問題ができるって思ったよ?」  ディナーの後、エッジと私がそこで話している間に、下の階からギターの音が 流れて来る。  「多分ボノだね」私が尋ねると同時に彼は答える。我々が下りると、それが正しい ことが分かる。ボノが「Stir My Soul」にギターをかき鳴らす音をオーバーダブ しているところであった。  エッジは聴いている。「後半は賛成できないな」彼は言う。「なんかとても・・・ 利口な感じがするんだ」  アダム・クレイトンは片隅に静かに座り、ベースをいじっている。体調が思わしく ないマレンは家に帰る。彼ら2人は今のところ、レコーディング作業中に言葉を 発することは少ないようだ。しかし、彼らが静かなる影響力を持っていることが 感じられるし、もし彼らが毎日顔を出さないのであれば全く違うアルバムに仕上がる だろうと思われる。その上、彼ら4人を見ていると、4人の断固とした総意によって、 どれほど長い時間がかかっても「2番目に良いアルバム」、ましてや素晴らしいが 新鮮味がない作品で納得するはずがないように感じられる。  エッジは再びボノのギターパートを聴き、私の方を向いた。「僕が振りかえるまでの ちょっとの間に起こったことが分かるかい?」彼は、自分が好きではない部分を除いた ボノのパートをちょっと再生してみせる。それから彼は、自分のパートをギターで 少し弾き始める。それはシンプルで酔っ払ったような調べがフレットボード(ギターの 柄の部分に半音階ごとに取り付けられた棒)の上で寄り添う感じであるが、しかし 次第にそれが積み上がり、聳え立ち始める。  ボノは視線を上げてニヤッと笑う。「それは凄いや」と彼は言う。エッジはさらに 弾き、それに没頭していく。ボノは更に興奮し始め。宙を蹴る。「いいぞ。それだよ。 このブルーノートがふらりとやってきたぞ。いや、青ではないな。紫だ。これは カビの緑(moldy green)だ・・・」ボノは私に体を預ける。「かつてBob Dylanが 俺に言ったんだ。『エッジにはソロをやらせても大丈夫だね』そんな言葉だったかな。 でもエッジはそうは思っていないんだ。まさに例外だよ・・・。あることで大成する にはそのことを嫌いにならなければならないなんて」エッジは弾き続け、ボノは急に 立ち上がる。彼は歓びの夢想を始め、Neil Youngの「Like a Hurricane」について 語る。この時点では特に不適当という話ではないようだ。  今晩の彼らの作業は終了した。ボノは続ける。「ボブが言った事を思い出すよ。 ボブは『最高な作品と言われるものは、物語を語ることを主題にしたものなんだ』」 ボノはニヤッと笑う。「多くの人は語るものを持っていないからね・・・」  U2が今問題を抱えているとすれば、その反対のことのようである。つまり語る ことが多すぎるのだ。この4時間のうちに、曲は甘美なものから激しいものへと完全に 移行してしまったし、これが彼らが作業に費やした2年のうちのたった4時間という ことを考えると、この2つのバージョンのどちらにも似ていない曲がニューアルバムに 収録される可能性だってある。  「俺達は昔から何も変わっていないんだ」とボノは嘆く。「問題は、俺達は物事を 実行し続けてばかりだということなんだ。俺達は終わることを知らないんだ」しかし これが彼らのやり方である。エッジは言う。「爆発的なエネルギーが最高のひとときを もたらすんだよ。一度に全てが押し寄せるようなね。それがやってくるのを待つことも できるし、でもそのやり方しか知らないから、僕らにとってはそれはフラストレーション になることもあるよ」彼らの現在のスケジュールによれば、アルバム制作終了までは 残すところ数週間となっている。ボノは、あと3日しかない段階でAchtung Babyが 仕上がりそうもないと言われたときのことを思い出し始める。愉快そうに、彼は最後の 72時間にアルバムがどんなに変わったかを回想する。「あの時は本当に気が狂いそう だったね」と彼は言う。  「手を触れなくていい曲なんて全くない状態なんだ」とエッジは言う。「CDが 店頭に並ぶまではね、本当に何も終わっていないということなんだ」 CHRIS HEATH (August 2, 2000)